法学部で広がる未来の自分の可能性 ~第15回~歴史を知り、未来を見通す力を養う――『法制史』の魅力とは?
皆さんこんにちは!今回の「法学部で広がる未来の自分の可能性」では、流通経済大学の法学部で「法制史」の授業を担当されている宮平真弥先生にお話を伺いたいと思います。法学部では憲法や民法といった個別の法律の内容だけでなく、法制度全体の歴史も学べるということですが、法の歴史を学ぶことの意義についてお話をお聞きしましたので、ぜひ最後までご覧いただければと思います。
――本日は「法制史」の授業について詳しくお話を伺います。まず、この授業ではどのようなことを学べるのか教えてください。
宮平:この授業では、日本の法制度の変遷について学んでいきます。過去の出来事を参照することで、現代の問題をよりよく理解し、未来を見通す力も身につけることができるようにしたいと考えながら授業をしています。
――日本の法制度の歴史について学ぶということですが、そこには何か特徴などがあるのでしょうか?
宮平:歴史的にみると、日本の法制度は、中国、フランス、ドイツ、アメリカなどといった多くの国や地域の影響を受けてきたという点も大きな特徴ですが、特に近代以降の歴史についてみると、資本主義化という点がポイントになると考えています。資本主義化をいち早く成し遂げた西洋の法制度を、明治以降の日本は積極的に取り入れていったということです。
――時代によって法制度も変化していっているということなんですね。
宮平:はい。法制度というものは、経済や社会の変化にともなって変わっていきます。ですが、それと同時に、法制度が経済や社会に影響を与えるという側面も見落とせません。特に日本社会についてみると、戦前の法制度が、形を変えつつ、今日の日本社会に独特の性格を与えているということもあるんですよ。
――戦前の法制度が現代の社会にも影響を及ぼしているんですか?
宮平:その通りです。例えば、明治維新以降の国家機構や刑事法、民事法などの司法制度などは、ドイツ、フランスなどといった西欧の近代法を参照しつつ作られましたが、その際には幕藩体制時代の法制度の影響により日本的変容が生じました。その結果、民法の家族法の分野に関しては、日本的な(厳密には武家的な)「家制度」が反映され、「男尊女卑(だんそんじょひ)」的な傾向が強い制度が完成したのです。今日の日本は、ジェンダーギャップランキング118位(2024年)という、世界でも女性の社会的地位が低い国に分類されていますが、その原因の一つが、明治期の法制度にあると考えられます。
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――江戸時代の制度が現代社会にまで影響しているのですね。
宮平:法制度が社会に与える影響という点では、治安維持法とアジア太平洋戦争の関係も重要です。1925(大正14)年に制定されたこの法律は、社会運動のみならず学術研究サークルまでをも弾圧する、思想統制の武器となり、その結果、「反戦」を訴える者も弾圧され、侵略への歯止めがなくなりました。このような歴史を学ぶことにより、言論の自由の重要性や独裁国家の危険性についても理解することができるでしょう。
――とても重要な内容を学べる授業ですね。このほかに、歴史上の人物などについて取り上げることはありますか?
宮平:はい、この授業では、今日の日本社会が参考にしたい人たちを取り上げます。例えば、高知県の楠瀬喜多(くすのせ きた)は、女性にも参政権を与えよと主張し、彼女の努力もあって、高知県の一部では、1880年に町村議会で女性にも選挙権が認められるようになりました。明治政府は1884年に法改正し、女性の選挙権を廃止しましたが、一時的とはいえ、女性の権利向上を達成した功績は忘れてはいけないと思います。
――そのような歴史があったんですね。
宮平:歴史の教科書にも出てくる人物でいうと、石橋湛山(いしばし たんざん)も重要です。彼は、1920年代に「日本本土が侵略されるおそれはない。紛争があるとすれば海外領土(台湾、朝鮮、関東州)である。海外領土=植民地は手放した方がよい」と主張していました。実際、その後の日本は、湛山が予見したとおり、植民地をめぐって英米と戦争することになり、惨敗しました。湛山をはじめ、戦前でも戦争や植民地支配に反対していた日本人がいたことを忘れてはいけないでしょう。
――石橋湛山は日本史の授業でも習いましたが、そのようなことも言っていたのですね。大変興味深いです。最後に、この授業を通じて学生にはどのようなことを学んでほしいと考えているか教えてください。
宮平:法の歴史は人権の歴史でもあります。人権が抑圧されてきた過去を学ぶことで、自由や平等の重要性がより深く理解できるでしょう。また、現代の日本社会には、セクハラやパワハラ、長時間低賃金労働といった課題がありますが、この授業を通じて人権についての理解を深めることで、そうした問題を解決して、もっと住みやすい社会の構築に貢献できる力を持つ社会人になってほしいと願っています。