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法学部で広がる未来の自分の可能性 第23回                           アニメや漫画のキャラクターまで!?島田先生の刑法が人気の理由

今回の「法学部で広がる未来の自分の可能性」では、自治行政学科の島田先生をお招きし、島田先生の担当する「刑法」の授業についてお話をお聞きしてきました。刑法というと少し怖そうな印象の法律ですが、島田先生の授業ではどのように刑法を学んでいるのか、また刑法を学ぶことの意義についてお話ししてもらいましたので、ぜひ最後までご覧ください。



――島田先生、今日はよろしくお願いします。まずは、先生のご専門とされている刑法という法律について簡単に紹介していただけますか?
島田:刑法という言葉は、端的にいうと「犯罪」と「刑罰」に関するさまざまな法律の全体を指すものですが、通常は「刑法」という名前の付いた法律すなわち「刑法典」の意味で理解されており、大学でも「刑法典」を中心に授業を行っています。

――具体的にはどういった「犯罪」や「刑罰」が授業で扱われるのでしょうか?
島田:刑法典には殺人罪や強盗罪、窃盗罪など、みなさんも知っているような重要な犯罪と、それに科されることになる死刑や拘禁刑、罰金刑などの刑罰が規定されているので、授業でもこれらを扱うことになります。

――法律の勉強というと難しい印象がありますが、殺人罪や強盗罪、窃盗罪というとイメージがしやすいようにも感じます。実際、刑法の勉強はどのくらい難しいのでしょうか?
島田:たしかに法律の学習は「覚えることが多くて難しそう」と思われがちですが、決してそうではありません。特に法律の条文は六法に書いてあるので覚える必要さえないともいえます。法律の勉強というのは条文の暗記ではなく、その基本的な意味をめぐる解釈を知り、具体的な問題に当てはめて、妥当な結論を導くための論理的思考力を養うことなのです。

――法律の勉強というと、条文や法律用語を暗記することだと思っていました。
島田:たしかに議論をするときなどには、法律用語を使った方が楽なのですが、多くの場合は法律用語を使わなくても議論はできます。大切なのは条文の中に出てくる言葉や文言の基本的な意味を知ることです。

――文言の意味を知るというのはどういうことなのでしょうか?
島田:例えば、殺人罪の条文は「人を殺した者は……」と始まります。とてもシンプルで分かりやすい内容ですね。ところが、この条文の文言の解釈については争いがあるのです。

――「人を殺す」という言葉の解釈が分かれるということですか?
島田:その通りです。問題となるのは「人」という文言です。「人は人でしょう」と、あまり疑問に思わない方も多いでしょう。ですが、「まだ生まれていないお腹の中の赤ちゃん」や「すでに亡くなった人」はどうでしょう。これらの「人」は殺人罪にいう「人」といえるでしょうか?

――まだ生まれていない人やすでに死んでいる人を「殺す」というのは、ちょっと意味がよくわからないように感じますね。
島田:そうですよね。そのため刑法では、まだ生まれていない赤ちゃんやすでに死んでいる人は殺人罪にいう「人」には当たらないとして、堕胎罪や死体損壊罪という殺人罪以外の犯罪が成立しうるだけだとされています。ですが、赤ちゃんはいつまで「胎児」として扱われ、いつから「人」として扱われるのか、また「人」はいつから「死体」として扱われるのかといわれると、限界的な場面での線引きは微妙なものとなります。

――
「限界的な場面」とは具体的にはどのような場合になるのでしょうか。
島田:たとえば、出産途中で赤ちゃんを殺した人に、殺人罪が成立するのかが問題になります。そこで、刑法の授業では、これまでに裁判所や研究者がどのように考えてきたのかを学び、それを踏まえて、自分はどう考えるのか、他の考え方はどうして採りえないのかという思考訓練を行うことになります。

――「人」という単純な言葉なのにいろいろな考え方がありうるのですね。
島田:そういうことです。ゼミの時間などには、いろいろな考え方についてどの考え方がより優れているのか、ゼミ仲間と討論することもあります。その際には、自分の考えと異なる立場に立つこともあります。さまざまな視点から問題を検討することで、法的思考能力を一層深めることができるでしょう。

――刑法の勉強に興味が湧いてきました。先生の授業で実際に使われている問題についてもう少し教えてもらっても良いでしょうか?
島田:私は授業でよく「ウルトラマン事例」という問題を出しています。「ウルトラマンは地球が怪獣に襲われると怪獣を倒しにきてくれますが、その際に地球の多くの物を壊しています。これは『器物損壊罪』に当たらないのでしょうか?」という問題です。

――ウルトラマンが、器物損壊…
島田:器物損壊罪は第261条に規定されている犯罪ですが、先ほどの殺人罪の規定と同様に「~した者は」と書かれています。「者」というのは「人」を意味する言葉ですので、ウルトラマンが「人」といえるのかどうかで器物損壊罪の成否が左右されそうです。

――この問題はどのように考えれば良いのでしょうか?
島田:法律には正解がないとも言われますが、刑法上の結論としては、ウルトラマンが「人である」としても、「人ではない」としてもどちらでも構いません。それよりも、相手をどう納得させるか、その理由をいかに提示するかが重要になります。

――相手を納得させるための理由が大切ということですね。
島田:そういうことです。例えば先ほどの問題を考えるにあたっては、自分なりの「人の定義」を考えたと思いますが、そのとき、他の「人に似たような存在」との整合性まで考えることができていれば、そちらの方がより納得のいく考え方ということになるでしょう。

――なるほど、相手を納得させるためにはさまざまな場面を想定しながら考えることが必要なのですね。
島田:ちなみに、授業で議論していたときに、学生から「仮面ライダーの方が好きなので、仮面ライダーの事例にしてほしい」と言われたことがあります。このように他の関連する事柄を頭に浮かべられるようになるのも、法的思考が深まっている証拠だと思います。

――ウルトラマンや仮面ライダーを素材に勉強をするというのはとても面白いですね。
島田:刑法というとどうしても怖いイメージがあると思いますが、アニメや漫画を利用すれば、刑法の怖いイメージも薄らぐと思っています。例えば、ONE PIECEの「ルフィ」、進撃の巨人の「巨人」や、鬼滅の刃の「鬼」などはどうなるのか皆さんも考えてみてください。「禰豆子ちゃん」などはだいぶ難しい問題かもしれませんね。

――島田先生の授業はアニメや漫画のキャラクターが出てきてとても楽しそうですね。
島田:たしかにフィクションの世界のキャラクターも登場しますが、それだけではありません。私の授業では、私も含めて、法学部の先生が加害者?被害者として登場します。たとえば、「島田は、お隣の飼い犬から急に襲われた際、身を守るためにこの飼い犬に怪我をさせた」という場合、島田に器物損壊罪が成立するでしょうか?最終的には、このような現実に起こりうる例について、刑法の言葉を使いながら、自分の意見を論理的に示せるようになるのが刑法の勉強だと思っています。

――マンガやアニメの例を使いながら、また、身近な先生たちを思い浮かべながら、実際の事件について考えるための力を養うということなのですね。とても勉強になりました。では最後になりますが、刑法を学ぶことの意味について、お聞かせいただければと思います。
島田:刑法は、犯罪をしない人には関係ない法律だと思われがちですが、犯罪は凶悪なものばかりではありませんし、自動車事故のように誰もが犯しかねない罪もたくさんあります。SNSによる誹謗中傷など、みなさんもこれは犯罪にならないのかと気になったこともあるでしょう。刑法を学ぶことで、このような場合に何をすると犯罪になり刑罰が科されるのか、どこまでなら自由に行動できるのか、知ることができるようになります。これが刑法を学ぶことのもっとも重要な意味だと思います。

――刑法を学ぶことによって、私たちがとるべき行動の選択肢を知ることができるということですね。
島田:はい。そしてもう一点ですが、刑法の問題を考えるときには裁判所で扱われた類似の事例にも触れることになります。その際には、「事実は小説より奇なり」というように、実際に小説以上に驚くような事件が現実に起こっていることを刑法の学習を通じて知ることができるでしょう。そして、その解決方法を考えることを通して、様々な考え方に接し、視野を広げることができるようになるはずです。刑法を学んでおけば、さまざまな場面で加害者と被害者の双方に平等な視点で問題を判断できると思います。

――島田先生、本日は貴重なお話をお聞かせいただき誠にありがとうございました。


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