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「エモい」も「論破」も法学の入り口?――法学部における言葉の学び   第31回 法学部で広がる未来の自分の可能性

「エモい」「ツンデレ」「論破」――どれも耳にしたことのある言葉ではないでしょうか。なんとなく使っているけれど、「エモいってどんな感情?」「“論破した”って言いたがる人がいるのはなぜ?」などと聞かれると、意外と説明が難しいものです。実は、こうした身近な言葉を深掘りしていくことが、法学部での学びともつながっています。今回は、言語学を専門とし、法学部で1年ゼミを担当されている貝森先生にお話を伺いました。


――先生は言語学をご専門とされているそうですが、先生のゼミではどのようなテーマを扱っているのでしょうか?
貝森:私のゼミでは、学生自身が日頃何気なく使っている身近な言葉について考えてもらうというテーマで授業を行っています。

――言葉について考えるというのはどういうことなのでしょうか?
貝森:たとえば「エモい」という表現がありますが、これは具体的にどのような感情を表していると思いますか。辞書には「感動的であること」などとありますが、それだけでは説明しきれないようにも思えます。また、「恋に“落ちる”」という言い回しについても、なぜ「昇る」や「向かう」などではなく「落ちる」なのでしょうか。そんなことを授業の中で考えてもらっています。

――どうして「エモい」や「恋に落ちる」と言うのか…考えたこともなかったです。
貝森:そうですよね。ですが、こうした「当たり前すぎて気にも留めないこと」こそが、面白い問いの出発点になります。言葉の意味やイメージを掘り下げていくと、私たちの考え方のクセや、さらには社会のあり方までもが見えてくるのです。

――とても興味深いです。では、ゼミで行う具体的な活動としてはどのようなことを行っているのでしょうか?
貝森:ゼミの中では、日常生活の中で何気なく使っている言葉を観察?分析したり、SNSやマンガ、ゲームに登場する表現についての論文を読んでもらって、それをもとに議論をしています。たとえば、「ツンデレ」という言葉について考察した論文や、『ONE PIECE』の登場人物の台詞を分析した研究なども題材として取り上げることがあります。

――マンガやゲームも学問の対象になるんですね!
貝森:こうした身近な題材を通して、「こんな見方もあるんだ」とか「こういうことも研究できるんだ」といった気づきを得てもらいたいと考えています。

――言葉について考えることで、どんな力を身につけることができるのでしょうか?
貝森:何気なく使っている言葉に敏感になることは、物事を批判的に考える力を育てる上でとても大切です。たとえば、近年よく耳にする「論破」という言葉。これは「相手を言い負かすこと」を意味しますが、その背景には、「議論とは戦いであり、そこには勝ち負けが存在する」という考え方が潜んでいます。本来、議論は意見をすり合わせたり、相互理解を深めたりする場のはずです。しかし、「論破」という言葉を使うことで、私たちの態度や考え方までもが「勝ち負けの構図」に引き寄せられてしまうことがあるんです。

――言葉の選び方に、考え方や価値観が表れるんですね。
貝森:その通りです。このように、ある意味最も身近な存在である「言葉」について立ち止まって考えてみることで、その背後にある価値観や前提を明らかにすることができます。

――言葉にアンテナを張ることは、法学部での学びにもつながっているのでしょうか?
貝森:はい、深く関係しています。法学や政治学と言語学とは一見無関係に見えるかもしれませんが、法律は言葉から成り立っており、その運用もまた言葉を通じて行われます。条文、判決文、契約書における言い回しひとつでその効力が大きく変わることもありますし、法や政治に対する私たちの理解は、メディアや日常の言説を通じて形成されている面もあります。だからこそ、法律や政治に関わる表現が、どのような言葉で語られているのかに目を向けることは重要なのです。

――言葉を意識することが法学部での学びにとっても大切なのですね。
貝森:はい、言葉の意味や使い方に注意を払うことは、法律やメディアを正確に読み取り、そこに込められた価値観や意図を見抜く力につながります。たとえば、組織を改変することを「改革を前に進める」と言えば、前向きで積極的な印象を与えます。一方で「組織にメスを入れる」と表現すれば、痛みを伴う変革がイメージされます。さらに「腐ったリンゴを取り除く」と言えば、組織の問題を一部の人間に帰属させるような響きも感じられます。

――同じことでも、言い方次第でまったく違った印象になるんですね。
貝森:言葉の選び方で、同じ物事がまったく異なる意味合いを帯びるのです。ときには、こうした言葉選びが、特定の立場や政策を正当化するために、知らず知らずのうちに使われている場合もあります。だからこそ、「どんな立場で、なぜそのように語られているのか」ということを見抜く力は、法律や政治を学ぶ上で欠かせないものなのです。

――最後になりますが、貝森先生からこの記事の読者にメッセージがあればお願いいたします。
貝森:「当たり前すぎて普段は気にも留めないこと」をじっくりと考えてみる。大学はそんな経験ができる場所です。法学部のゼミは1クラス15人程度の少人数制で、先生やクラスメートとの距離が近く、じっくりと議論できる環境が整っています。先生やクラスメートとともに問題と向き合う経験は、視野を広げ、物事を多面的に捉える力につながります。大学を卒業した後も、きっと大きな力となるはずです。

――貝森先生、本日はありがとうございました。


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